関東土質試験協同組合
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第8回目
「関東の地盤を知ろう!」

総務係長「土橋」

皆さん‼ 久しぶりですね。土橋です。今回は、「関東地方の土質」第8回目(「関東ローム層(立川ローム層)」)について紹介します。北区王子の「王子貝層」や埼玉県の旧石器の遺跡の話もでてきますよ。関東ローム層については、まず、「立川ローム層」からスタートです! 一番若い堆積物だからだそうです!

土質試験課の羽田課長さん

関東さん! 今回から「関東ローム層」についての特徴を紹介することになります。「関東ローム層」については、土木工学の分野でも重要な地層となっていますね。まず、ローム層とはどのような地層の事を言いますか?

新入社員の関東真理子さん

はい!! 羽田課長。最初に「ローム層」と名づけたのは、確か、1881年にダーフィト・ブラウンスによって「ローム」と命名されたと聞かされましたけれど。大森係長どうかしら!

大森係長

そうですね。関東さん! 「ローム層の命名者」なんてよく知っていましたね。「ダーフィト・ブラウンス」は、ドイツの地質学者で、1880年1月~1881年12月まで東京大学で地質・古生物学などの講義を受け持っていたようです。在任中は、各地で地質調査を行い、「日本の化石層序の先駆者」とされています。特に、北区王子の石神井川河岸で貝化石を採取し、「王子貝層」と名付けたり、ナウマンゾウの臼歯に関する論文を発表したりしていて、日本の地質学の進歩に大いに貢献した人のようです。王子貝塚の露頭は、王子の「音無さくら緑地」にあります。写真-1 と写真-2 に現地の写真を貼付しました。

写真-1 王子貝塚の銘板(発見された貝化石)
写真-1 王子貝塚の銘板(発見された貝化石)

写真-2 王子貝塚の地層露頭(東京層)
写真-2 王子貝塚の地層露頭(東京層)
土質試験課の羽田課長さん

それでは、大森係長! 関東ローム層の定義はどうなっていますか!! 関東ローム層は、台地や丘陵部に広く分布していて、古い段丘面ほど古いローム層が堆積していますね。例えば、羽鳥謙三(文献1)によれば、「もともと<ローム層>という名称は、砂と粘土が混和した土壌に対する呼び名であった。」と紹介しているね。さらに、「関東の台地を覆う関東ロームという赤土は、第四紀洪積世(更新世のことで今から258万年前から約1万年前)に積もった火山灰である。」と記載されている。厳密にいえば、関東ローム層は、火山灰とは関係がなく、<粒径比率に基づく砂と粘土とが混和した土壌>となるようだけれど、ここでは、通常に言われている「更新世の堆積物(火山灰質粘性土)」と考えましょう! それでは、大森係長!

「王子貝層」は、「日本列島ジオサイト」に選ばれています。都内で唯一のジオサイトだねー。また、ダーフィト・ブラウンスの事だけど、アイヌ文化についても研究していたようだよ。私の大胆な予想だけど、1873年のウイーン万国博覧会(5月~10月)では、わが国から日本文化の紹介として名古屋城の金の鯱や大型陶磁器などの他、アイヌ文化についても紹介がされたようです。したがって、ダーフィト・ブラウンスがこの博覧会を見学し、興味を抱いていて、在日中にアイヌ文化の研究も行ったのではと想像しています。

大森係長

へえーそんなこともあるのですか? 驚きの予想ですね??

では話を戻しますね。関東ローム層は、古くから調査がよく行われていて、各段丘の堆積物の地質年代もおおよそ判明しています。各段丘堆積物の名称にちなんで、関東ロームの各層は名付けられています。堆積年代が古い時代から多摩ローム層(多摩段丘)、下末吉ローム層(下末吉段丘)、武蔵野ローム層(武蔵野段丘)、立川ローム層(立川段丘)の4区分に分類されています。多摩ローム層が40万年前~約13万年前、下末吉ローム層が13万年前~約8万年前、武蔵野ローム層が8万年前~4万年前、立川ローム層が4万年前~約1万5,000年前とされています。

表-1 関東地方南部・北部のローム層の対比一覧(文献2改表)
表-1 関東地方南部・北部のローム層の対比一覧(文献2改表)

表-1 をみると、関東北西部の群馬県では、立川ローム層に相当するローム層が「上部ローム層」に対比できるようです。さらに、関東東北部の栃木県の宇都宮周辺では、「田原ローム層」が対比できるようですね。茨城県の場合は、どうでしょうか? どちらかと言えば、関東東北部のローム層に近いように推定されますね。

また、表-2 には、関東地方南部のローム層の地山状態の自然含水比の分布範囲(文献2から作表)をまとめています。さらに、図-1 には、立川ローム層と武蔵野ローム層の露頭での堆積イメージを示しています。

表-2 地山での各関東ローム層の自然含水比の分布範囲
(文献2から作表)
表-2 地山での各関東ローム層の自然含水比の分布範囲(文献2から作表)

図-1 立川ローム層と武蔵野ローム層との露頭イメージ
図-1 立川ローム層と武蔵野ローム層との露頭イメージ
土質試験課の羽田課長さん

では、関東ローム層で最も時代が新しい「立川ローム層」の紹介ができますか?
そうだね! まず「立川ローム層」の物理的特徴はどうでしょうか? 関東さん!

新入社員の関東真理子さん

羽田課長! 「立川ローム層」は、最も新しく堆積したローム層ですが、自然含水比が80~140%と高い値を示していますが。他のローム層と比較してなぜ高い含水比となっているのですか!!きっと空隙が大きくて、水分を保持できる粒子構造になっているのではないでしょうか!まちがいないわ!!

大森係長

関東さん!「立川ローム層」は、「武蔵野ローム層」と同じように富士・箱根系の火山灰が主体のはずだよ。また、「立川ローム層」は粘土鉱物として「非晶質物質であるアロフェン」の含有量が多いと言われています。アロフェンは多孔質な非晶質物質で知られていますよ。したがって自然含水比が高い傾向にあるのも理解できますね。

竹中肇(文献3)によれば、吸着表面積(比表面積)を求めており、「立川ローム層」の吸着表面積は320~380m/gで、ベントナイトの値である454 m/gに近い値を示しており、極めて大きな吸着表面積値であることを述べています。

また、野口淳(文献4)によれば、「立川面は、氷期の海面低下による河谷の下刻により形成されたと考えられ、ビュルム氷期の中頃に対比される。なお、立川ローム層は、層序、岩相、鉱物組成から4つの部層に分けられる。」と述べていますね。参考になる?

なお、立川ローム層の分布域としては、武蔵野台地や大宮台地などで見られますが、東京では、武蔵野台地の南端にある世田谷区の等々力渓谷(玉沢橋付近)の露頭でみることができます。この露頭(写真-3)では、下位から上総層群(高津互層)、渋谷粘土層、武蔵野礫層、武蔵野ローム層、東京軽石層、立川ローム層などの一連の地質が俯瞰できる数少ない露頭だそうです。等々力渓谷でみられる関東ローム層の露頭は、おそらく武蔵野ローム層及び武蔵野礫層で、立川ローム層は木々が鬱蒼としていて確認できないみたいでした。写真-4には、不動の滝周辺の湧水の状況(はけからの湧水)を写しています。

写真-3 等々力渓谷の関東ローム層
写真-3 等々力渓谷の関東ローム層

写真-4 ローム層下位の「不動の滝」湧水状況
写真-4 ローム層下位の「不動の滝」湧水状況
土質試験課の羽田課長さん

では、次に、私から「国分寺崖線」について説明するよ。武蔵野台地では、2種類の河岸段丘が発達していて、武蔵野台地の南側を流れる多摩川によって形成された低位面が「立川段丘(立川面)」と呼ばれ、それより一段高い高位面が「武蔵野段丘(武蔵野面)」とされています。さらに、この段丘の縁は段差数mの崖になっていて、「ハケ(はけ):段丘崖」と呼ばれる「崖線」で知られているね。有名なのは、「立川崖線」「国分寺崖線」です。武蔵村山市から、国分寺・小金井、府中、田園調布付近(写真-5)まで約30㎞と延々この「崖線」が続いていて、別名「国分寺―玉川崖線」とも呼ばれているみたいだよ。だから、等々力渓谷もこの崖線の範囲にあるようだね! 「はけ」下には、湧水が多く認められて地元の人には、この湧水を「ママ下湧水」などと呼んで親しまれています。

なお、この「はけ」については、大岡昇平が「武蔵野夫人」(文献5)の冒頭では、【土地の人はなぜそこが「はけ」と呼ばれるか知らない。「はけ」の荻野長作といえば、この辺の農家に多い荻野姓の中でも、一段と古い家とされているが、人々は単にその長作の家のある高みが「はけ」なのだと思っている。中央線国分寺駅と小金井駅の中間、線路から平坦な畠中の道を二丁南へ行くと、道は突然下りとなる。「野川」(写真-6)と呼ばれる一つの小川の流域がそこに開けているが、流れの細い割に斜面の高いのは、これがかって古い地質時代に関東山地から流出して、・・・・・】と「はけ」について記載されています。文学作品に詳細な地形や地質に関する内容が記載されていることは大変興味深いですね。

写真-5 野毛二丁目緑地(国分寺崖線上の緑地)
写真-5 野毛二丁目緑地(国分寺崖線上の緑地)

写真-6 野川沿いのがけ「はけとは」
写真-6 野川沿いのがけ「はけとは」
新入社員の関東真理子さん

なんと!! 羽田課長!「武蔵野夫人」ですか! 武蔵野夫人と言えば、男女の機微を描いた「心理小説」ですよ! 私にはとてもとても意見ができませーん!! びっくりですね!この小説に武蔵野の地形や地質について記載されているなんて!

大森係長!それでは、「立川ローム層」の他の物性データはどうでしょうか?例えば、保水能力が高そうだから、間隙比や透水係数などはどうですか!!

大森係長

関東ローム層の透水性に関しては、色々なデータがあるみたいですね。安池慎治ら(文献6)によれば、川崎市宮前区の建設工事の切土で、新期ローム層のサンプルにより、異方性を考慮した透水試験を実施しています。その結果では、「関東ローム層の透水性に管状間隙の存在が極めて大きな要因になっていることが明らかになった」としています。また、垂直方向の透水係数のオーダーは10-3㎝/sec (10-5m / sec )で、水平方向の透水係数のオーダーは10-4cm/sec (10-6m/sec )と鉛直方向のそれより明らかに小さいです。

土質試験課の羽田課長さん

大森係長!! そうそう!アロフェンと言えば、宋永焜(文献7)は、アロフェン含有量と指示的性質との関係をもとめているので、その結論を以下に示すよ。
・アロフェン含有量と比表面積、全間隙量、非自由水分量との間には、各々直線比例関係がある。
・アロフェン含有量と自然含水比、液性限界、塑性限界、強熱減量との間には、各々直線的比例関係がある。
・アロフェン含有量が増えると、液性指数は減少する傾向にある。
・関東ロームの自然含水比と液性限界との間には直線的比例関係がある。
・塑性図上における関東ロームの位置はA線の下方にあり、アロフェン含有量が多いほど、その線から離れるなどの関係性が認められていると述べています。

宋永焜(文献8)及び石倉仁士ら(文献9)によれば、以下の知見も得られているよ。
❶塑性指数からみた関東ロームの地盤は、一般にアロフェン含有量が増加とともに安定化する傾向にある。
❷アロフェン含有量が大きいほど「風乾による限界初期含水比」は大きくなり、練返しによる液性限界の低下も大きい。
❸関東ロームでは、「酸性分散」がアルカリ分散より有効である。アロフェン含有量60%以下では、「ピロリン酸ナトリウム」、60%以上では「塩酸分散」が有効である。
❹アロフェン含有量が増加するにつれて不攪乱土の㎊曲線は高含水比側に移動し、風乾すると低含水比側に移動する。アロフェン含有量と非自由水分との間には、ほぼ直線の比例関係があるとされています。

新入社員の関東真理子さん

アロフェン含有量と物理的性質との関係は強い相関性があるのですねー、羽田課長!!「立川ローム層」は非晶質なアロフェン含有量が多いとされていましたが、多摩ローム層などではどうなっているのでしょうか?古い時代ですから!

土質試験課の羽田課長さん

そうだね!おそらく古期ローム(下末吉ローム層・多摩ローム層)は粘土鉱物の結晶化が進行して非晶質なアロフェン含有量は少なくなるか、ほとんどなくなっているのでは?  竹中肇(文献3)や宋永焜(文献7)によれば、多摩ロームの主体は、加水ハロイサイトのようですね。なお、アロフェンは、直径50Åの非晶質な球状粘土鉱物であり、内部に多量の非自由水分を有しているとされています。

大森係長

話は変わりますね。立川ロームの強度特性を紹介したいのですが、公開データは少ないです。例えば、日本の特殊土(文献2)では、関東ロームとして各地の火山灰質土と対比していて、qc(コーン指数)=10~25(㎏/㎠)(981~2,452kN/m2)、qu=0.5~2.5(㎏/㎠)(49.05~245kN/m2)、粘着力cu=0.2 ~0.6(㎏/㎠)(19.6~58.8kN/m2)、内部摩擦角Φu=0~10°程度の値ですね。また、半沢秀郎ら(文献10)は、武蔵野台地において4か所のボーリングを行い、サンプリング、現場ベーン試験、標準貫入試験と室内試験では、一軸圧縮強度試験、圧密試験、三軸圧縮試験などを詳細に実施しています。調査地点では、上部から「立川ローム層」、「武蔵野ローム層」、「武蔵野礫層」で構成されています。半沢らの結果の一部を示します。
❶圧密試験より得られたローム層の圧密降伏応力Pcは2.5~5㎏f/㎠(このうち「立川ローム層」は、2.5~4.2㎏f/㎠(245~412kN/m)程度である。
❷一軸圧縮強度は、1/2quとして現場ベーン強度と比較しているので、「立川ローム」のquは、qu=0.9~3.4㎏f/㎠(88.2~333kN/m)程度の値であるようです。

大森係長

皆さん‼ 赤土と呼ばれる立川ローム層では、「後期旧石器時代の遺跡や遺物」が多く発掘されているのを知っていますか! 旧石器時代の遺跡と言えば、有名なのは、群馬県の岩宿遺跡ですね。相沢忠洋が赤城山南東の関東ローム層から「黒曜石の打製石器」を発見したことから日本にも「旧石器時代」の存在を始めて証明したとされています。その他に、埼玉県の所沢市大字三ヶ島の川越台地の「砂川遺跡(今から2万年前)」では、明治大学や所沢市による発掘で、沢山の石器群が発見され、国の重要文化財に指定されており、立川ローム層等は、古代から我々の生活圏に寄り添っていたことが理解できますね。

★参考及び引用させていただいた主な文献など

  1. 1) 羽鳥謙三:「関東ローム層と関東平野」,URBAN KUBOTA, No.11/14.
  2. 2) 日本の特殊土:土質基礎ライブラリー,旧土質工学会編.
  3. 3) 竹中肇:「関東ロームの物理的性質について」,地質学雑誌,76,1970,日本地質学会.
  4. 4) 野口淳:「立川ローム下底部の年代と自然環境」,考古学ジャーナル,No.618 ,2011.
  5. 5) 大岡昇平:「武蔵野夫人」,新潮文庫,令和3年5月.
  6. 6)安池慎治・鈴木裕一;「関東ローム層の透水性とその異方性について」,日本地下水学会誌,第28巻,第4号,1986.
  7. 7)宋永焜:「関東ロームのアロフェン含有量と指示的性質間の統計的関係」,地盤工学会論文報告集,Vol.38 , No.4,1998,地盤工学会.
  8. 8)宋永焜:「関東ロームのアロフェン含有量がその工学的分類に及ぼす影響」,土の判別と工学的分類に関するシンポジウム発表論文集,平成5年,11月,社団法人土質工学会,土の工学的分類と判別に関する検討委員会.
  9. 9)石倉仁士、佐藤薫平、宋永焜:「関東ロームのアロフェン含有量が液性限界及び㎊曲線に及ぼす影響」,関東学院大学工学部宋研究室内部資料.
  10. 10)半沢秀郎・金谷泰邦・恒川勝・佐藤成美:「過圧密状態にある関東ローム層のせん断強度特性」,土と基礎,Vol.33,No.3, 1985, 土質工学会.
総務係長「土橋」

土橋です。第8回の話題提供はいかがでしたか? 今回も話題が沢山でしたね。さて、次回第9回は、関東地方の土質「関東ローム層(武蔵野ローム層)」の話題提供となります。どんな話題が出てくるのでしょうか?楽しみですね! こっそりマリコさんから聞いた話では、「犬吠埼灯台」の話が出てくるみたいですよ! また、新人さんも登場するみたいです!!

以上

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