関東土質試験協同組合
03-3742-3131

9:00〜17:20
(土日祝休)

お問い合わせ

INFORMATION
組合情報・ニュース

第9回目
「関東の地盤を知ろう!」

総務係長「土橋」

皆さん‼ 久しぶりですね。土橋です。今回は、「関東地方の土質」第9回目(「関東ローム層(武蔵野ローム層)」)について紹介します。武蔵野ローム層ではどんな内容がまっているのでしょうか? 先日、「黒湯温泉」にいってきました。素晴らしかったです!! 関東さんも大興奮でしたよ!また、今回から新人の池上京子さんが登場します。

土質試験課の羽田課長さん

今年4月に組合に入った池上京子さんを皆さんに紹介します。池上さんは、埼玉県大宮市生まれで、某有名私大の農学部出身です。詳細は追々に紹介しましょう。

池上京子

皆さん!池上京子です。4月に組合に入って、やっと土質試験研修が一通り終わりました。物理試験の「粒度試験」を担当します。頑張りますので、よろしくお願いします!!

大森係長

では、池上さんも良く聞いてね。今回は、武蔵野ローム層の紹介ですね。武蔵野ローム層は、今から8万年前~4万年前の堆積物で関東地方の広い地域に分布しています。分布域は、赤城山や浅間山などを供給源と推定される北部関東(宇都宮、東茨城台地、那珂台地などのローム層は、武蔵野ローム相当層と見られる)と富士・箱根火山を供給源とする南関東(大宮台地、武蔵野台地、相模台地、下総台地など)のいわゆる武蔵野ローム層とに分かれるみたいですね。

土質試験課の羽田課長さん

そうですね。武蔵野ローム層は、「武蔵野面」における段丘堆積物で、標準模式地は、武蔵野中西部に広がる「武蔵野台地」です。北東部では、上野台、本郷台、豊島台、成増台、南東部では目黒台、久が原台、荏原台などが有名で、その他に、加須台地、猿島台地、筑波稲敷台地、那珂台地、下総台地などに武蔵野ローム及びその相当層が広範囲な地域に分布していますね。なお、我が組合の最寄り駅の一つである「JR大森駅」は、荏原台の縁で、武蔵野台地とは何かと縁がありそうですね。ただし、我が組合は東京低地(海岸低地)にありますが。ここで、上野台と東京低地の境界を示す上野駅周辺を写真-1 に、図-1 に東京の台地と段丘面(文献1)を示します。写真は、関東さんの撮影ですよ!

新入社員の関東真理子さん

羽田課長! 大変です! 千葉県の犬吠埼には、武蔵野ローム層がみられるようですが、本当ですか!! 私、先月友達と2人で犬吠埼に遊びに行ってきたのですけど。犬吠埼灯台の近くには、あの有名な高浜虚子の碑がありましたよ。確か「犬吠の今宵の朧(おぼろ)待つとせん」の句碑でした。灯台は白亜の建物で美しかったです!!
 さらに、びっくりなのは、犬吠埼灯台の先の海上には、わが国初の「洋上の着床式沖合風力発電」の様子が望めたことで、私がしっかりその様子を撮影しました。写真-2 には、犬吠埼灯台を、写真-3 には、着床式沖合風力発電の全景を掲載させてもらいますね!

写真-1 上野駅周辺(左上野台、右東京低地)
写真-1 上野駅周辺(左上野台、右東京低地)

図-1 東京の台地と段丘面(文献1)
図-1 東京の台地と段丘面(文献1)
大森係長

関東さん!犬吠埼灯台は明治7年11月15日の建造です。イギリス人の灯台技師である「リチャード・ヘンリー・プラトン」(日本の灯台の父と呼ばれています)の設計で、塔高約31m、灯火標高51.80m、レンガ造りで塔形構造の灯台で、国の登録有形文化財です。なお、犬吠埼灯台は、国際航路標識協会(IALA)により1998年(平成10年)に、「世界各国の歴史的に特に重要な灯台100選」に選定されています。なんと、日本では、犬吠埼灯台を含め5基が選定されているようですね。
関東さん!この風力発電所は、東京電力グループと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同事業で、2019年1月1日から商用運転を開始していますよ。

写真-2 犬吠埼灯台(関東さんの撮影)
写真-2 犬吠埼灯台(関東さんの撮影)

写真-3 銚子沖着床式風力発電商用運転中
写真-3 銚子沖着床式風力発電商用運転中
土質試験課の羽田課長さん

ところで、大森係長! 立川ローム層の回で紹介した「等々力渓谷」には、武蔵野ローム層や武蔵野礫層、渋谷粘土層(東京層の一部との見方がある)などがみられる露頭がありましたよ。写真-4 (羽田課長撮影)には等々力渓谷でみられる露頭を紹介します。

写真-4 稚児大師堂から玉沢橋間の露頭
写真-4 稚児大師堂から玉沢橋間の露頭

図-2 等々力渓谷付近の地質断面(文献1)
図-2 等々力渓谷付近の地質断面(文献1)
土質試験課の羽田課長さん

大森係長、関東さん!! なんと第6回で紹介した三浦半島の「城ヶ島」は、「三崎面」に相当し、三崎砂礫層と武蔵野ローム層が見られます。武蔵野ローム層の模式地である「武蔵野面」が扇状地面であるのに対して、「三崎面」は海成段丘面である「波食台面」ですから、全国でも大変珍しいとされていますね。また、江の島周辺でも葉山層群の上位に武蔵野ローム層がみられるようですので、江の島周辺の武蔵野ローム層を写真-5に、葉山層の上位にある武蔵野ローム層を写真-6に示します。ローム層中の白色帯は東京軽石層のようです。では、関東さん!! 武蔵野ローム層の物性はどう!

写真-5 江の島の武蔵野ローム層(出典2) 写真-6 葉山層群と武蔵野ローム層(出典3)
 写真-5 江の島の武蔵野ローム層(出典2) 
 写真-6 葉山層群と武蔵野ローム層(出典3) 

新入社員の関東真理子さん

まず、宇野沢昭(文献4)の論文では、下総台地の酒々井(しすい)・佐原地区や大宮台地の岩槻地区などで標準貫入試験やスウェーデン式サウンディング試験、土質試験などを行っています。対象は立川・武蔵野ローム層及び土橋ローム(多摩ローム上半部)・多摩ローム層などですが、台地の地盤構造と地耐力との評価をしています。立川ローム層と武蔵野ローム層との区分はされていませんが、深度がやや深い2m~3.5m付近での試験データを武蔵野ローム層と見積って、表-1 に整理しなおしてみました。

表-1 下総・大宮台地の武蔵野ローム層と推定される各種物性値一覧(文献4の加工)
表-1 下総・大宮台地の武蔵野ローム層と推定される各種物性値一覧(文献4の加工)

土質試験課の羽田課長さん

関東さん!! 表-1 を見ると、下総台地よりも大宮台地の方がやや含水比や間隙比、コンシステンシー特性などが大きいですね。また、圧密特性も大宮台地の方がやや圧縮性が高めのように見られますよ。なお、含水比では、一般に立川ローム層が80~140%程度ですが、本試験結果では103~122%程度ですので、武蔵野ローム層(一般的に100~120%程度)と考えてよさそうですね。

大森係長

ところで、関東さん! 関東地方では、住宅地の多くが関東ローム層の上に建築されているのは知っていますか? 一般に建築物を建設する目安として、標準貫入試験のN値が使われていますが、これら建物の建設に係るN値の目安やその適用に当たって問題となる土木工学上の問題点はどうでしょうか? なお、宇野沢昭(文献4)によれば、「関東ローム層のN値が広範囲においてN=2~9の範囲にあって、平均N≒4という定常的な値を保つのは、風成の火山灰土である関東ローム層の特性の一端を示すものである。」と述べています。つまり、関東ローム層の平均的なN値は、N=4程度は見積もれそうです。

新入社員の関東真理子さん

問題点と言えば、通常の地盤では、小型の家屋ならN値が10~30程度で、中規模の建造物はN値が30~50、大規模の建造物ではN値が50以上でないと難しいですね。地耐力がないと、地盤沈下や地震時の液状化現象の発生が大きく懸念されると考えていいと思います。羽田課長!では、関東ローム層の支持力(長期許容応力度)はどう解釈すればいいのですか?

土質試験課の羽田課長さん

そうだねー 基礎の構造物を定める基準(文献5)によれば以下の区分がされていますね。
❶30kN/m2以上の支持力が地盤調査で確認できれば、「基礎グイ」または「ベタ基礎」または「布基礎」で基礎設計が可能である。
❷20kN/m2以上の支持力では、「基礎グイ」または「ベタ基礎」で基礎設計ができる。
❸20kN/m2未満の支持力の場合には、「基礎グイ」での基礎設計となる。

通常、立川ローム層の許容支持力は、8~12t/m2程度で、武蔵野ローム層では、10~18t/m2程度は見込める場合が多いと思います。 なお、施行令の「30kN/m2以上の支持力」とは、1トンが約10kN/m2ですので、1m2当たり3トンの荷重が載荷されても沈下せず長期にわたって抵抗できる地盤のことを言います。ちなみに、2階建ての家の「ベタ基礎」ならば1.0~1.5t/m2程度が載荷され、3階建ての家の「ベタ基礎」タイプでは、1.5~2.0t/m2が載荷されることになります。つまり、関東ローム層は30kN/m2(3トン)以上の許容支持力(最低でも立川ローム層の8トン(約80kN/m2))を有するので、十分に3階建ての家が「ベタ基礎」や「布基礎」で建設できることになりますね。

新入社員の関東真理子さん

羽田課長! わかりました。私の家も立川ローム層の上に建っているみたい。ただし2階建てですけど。大変勉強になりました!!

★参考及び引用させていただいた主な文献など

  1. 1) 貝塚爽平:「東京の自然史」,50pp,69pp,講談社学術文庫,2020年12月.
  2. 2) 江の島武蔵野ローム層(山二つ)の写真:電子博物館「みゆネットふじさわ」.
  3. 3) 葉山層群と武蔵野ローム層の露頭写真:神奈川県の地質,グレゴリウス講座.
  4. 4) 宇野沢昭:「関東ローム台地の地盤構造と地耐力」,地質調査所月報,第23巻,第1号.
  5. 5) 建築基準法施行令第38条:建設省告示第1347号(平成12年5月23日)
総務係長「土橋」

池上です。土橋先輩の代わりです。第9回の話題提供はいかがでしたか? 上野駅界隈、犬吠埼灯台や等々力渓谷そして江の島など今回も話題が沢山でしたね。さて、次回は、関東地方の土質「関東ローム層(下末吉ローム層)」の話題提供となります。どんな話題が出てくるのでしょうか? 私は大変楽しみにしています!!

以上

「関東の地盤を知ろう」コラム一覧へ戻る


組合情報・ニュースに戻る