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組合情報・ニュース
第11回目
「関東の地盤を知ろう!」
皆さん!! 久しぶりですね。土橋です。今回は、「関東地方の土質」第11回目(「関東ローム層(多摩ローム層)」)について紹介しますね。多摩ローム層ではどんな内容がまっているのでしょうか? 皆さん!期待できますよ! では大森係長お願いします!
それでは、「多摩ローム層」について簡単に説明します。まず、多摩ローム層の標準露頭は、小田急線「向ヶ丘遊園駅」の南方の「おし沼の切通」だそうです。知りませんでしたね。貝塚爽平(文献1)によれば、「東京近郊で多摩ローム層がみられる場所は、狭山丘陵と多摩丘陵で、狭山丘陵では、山口・村山の貯水池・西武園などに多摩ローム層がみられ、多摩丘陵では登戸の向ヶ丘遊園付近である」と述べています。図-1には、狭山丘陵における東大和市付近の地質断面のイメージ(出典2)を掲載しています。また、写真-1 には、東大和市芋窪豊鹿島神社奥宮周辺の多摩ローム層露頭(出典2)を示しています。
図-1 狭山丘陵の露頭イメージ(出典2改図)
写真-1 多摩ローム露頭(出典2)
ここで、狭山丘陵と村山貯水池とに関する内容が以前紹介した大岡昇平の「武蔵野婦人」の「第八章狭山」(文献3)に出てきます。関東さん知っていました?このくだりでは、ロームについても記載がなされており大変興味深いですよ。「狭山丘陵は、東京の西方三十キロ、所沢の西南で埼玉県と東京都とに跨っている。海抜百五十米、周辺約三十キロの楕円形の丘陵で、十キロ南方多摩川対岸の丘陵と同じ面に属し、地塁のように武蔵野台地に孤立している。」、また村山貯水池については、「丘の頂上からのみ成る低い岸の縁を映して、水深八十尺(1尺=38㎝なので、3,040㎝で約30m)の静かな水が緑に広がっていた。小じんまりした異様な円屋根を持った取水塔が水中に突き出ていた。堤の袂の事務所らしい洋風の建物は付近の飛行場の将校集合所に・・・・・」と記載されています。さらに、ローム層に関する記載は次のように書かれていますよ。
「湖の方は赤松の間を【赤土】の斜面が水面まで降り、同じ都市計画者が撒いたと思われる月見草がはかない黄色を点在させていた。」、「湖は丘の懐に水を溜めたものであるから、自然の浸蝕を受けない丘の腹の気紛れな輪郭によって、不自然に縁どられていたのである。水は岸の【ローム】を変質させる暇なく、その代しゃ色(注:くすんだ黄色/やや明るい茶色)を水際に沈ませていた。」と人造湖である水際までローム層の斜面が露出している様子が描かれています。驚きですね!! このローム層が多摩ローム層と呼ばれるものですね。写真-2 には、狭山丘陵にある村山貯水池の全景(多摩湖)を載せています。
貝塚爽平(文献1)によれば、「この狭山丘陵を構成する地層は、多摩ローム層とその下の芋窪礫層、谷ツ粘土層、三ツ木礫層からなっている。芋窪礫層は、風化した礫からなる多摩川系の河成堆積物で多摩期のもの、谷ツ粘土層と三ツ木礫層は主に海成層で、上総層群に属するものとみられる。」と述べています。
写真-2 多摩湖全景(大森係長撮影:空撮ですよ!)
図-2 関東ローム層の分布(文献1)
なお、貝塚爽平の文献1に掲示されている多摩ローム層の分布地域(関東ローム研究グループ:1965)は、図-2 に示すとおりです。もう一つの露頭候補としては、川崎市の生田緑地が挙げられます。どうですか!池上さん!! 紹介して!
はい!池上です。登戸の「向ヶ丘遊園」は良く知っています!!神奈川県川崎市多摩区枡形にある「生田緑地」は、「更新統の上総層群飯室層・オシ沼砂礫層・多摩ローム層がほぼ水平に堆積している場所」とされています。ここなら、多摩ローム層の露頭が良く観察できると思います。どうですか!関東先輩一緒に露頭見学に行きませんか?生田緑地に!
私が調べたところでは、吉沢健吾、高橋修(文献4)によれば、生田緑地周辺地域の地質概説として、関東ローム研究グループ(1956)による研究が紹介されています。「オシ沼砂礫層の上位には、多摩ローム層が整合で接している。多摩ローム層は赤褐色を呈し、しばしば白色ないしオレンジ色の軽石層を挟む。層厚は生田緑地では20mほどで、上限は不明である。多摩ローム層の堆積環境は、ローム層中の鉱物の結晶が自形を呈し、ほとんど水磨されたような鉱物粒が認められないことから、【陸成層】とされている。」と記載されています。なお、生田緑地には、1971年11月の事故で「ローム斜面崩壊実験」で研究者や報道関係者15人が犠牲となった慰霊碑があります。
写真-3 生田緑地の多摩ローム層露頭
写真-4 生田緑地のローム斜面崩壊の慰霊碑
(いずれも関東さんの撮影です。)
池上さん!ご苦労様。関東さん!!多摩ローム層の物性に関する文献類は探せました?
関東ロームの地山の強度は、一般の沖積粘性土のN値と一軸圧縮強度とから推定される Terzaghi and Peckの有名な相関式qu=12.5N(k N/m2)などとは異なりかなり大きめとなることは、承知されていますよね。でも、一度その構造が破壊されると極端に強度が低下すると言われていますが、なぜなのですか?
関東さん!関東ローム層は含水比が高いのは知っているでしょう。構造的に間隙内部に閉じ込められていた含有水分は、土が破壊すると「拘束状態を失い、自由化」するため、含水比の多いロームではその影響が大きく表れると考えられますね。ローム層中に含まれる粘土鉱物である鉱物の種類によってこの練返しによる強度低下の度合いに特徴が生じてくるのではないのかな。非晶質物質であるアロフェン含有量の多い立川ローム層とアロフェン含有量が少なく、加水ハロイサイトやハロイサイト質が多い下末吉ローム層や多摩ローム層では、異なる強度低下曲線を持つと推測できますね。
いい質問でしたね。例えば、足立忠司他(文献5)によれば、練返しに伴う一軸圧縮強度の変化についての解説(竹中肇・安富六郎:㎊の変化と軟化・硬化についての論文)をしていますよ。図-3には、この練返しに伴う一軸圧縮強度の変化を示しているよ。対象試料は、多摩ローム層試料、武蔵野ローム層試料、立川ローム層試料で、「図によると、立川ローム層の一軸圧縮強度は短時間の練返しで増大し、練返し時間が10分間以上では低下する。武蔵野ローム層、多摩ローム層では短時間の練返しでも、一軸圧縮強度は急激に低下している。」と解説しているよ。ここでは、多摩ローム層試料が最も練返し強度が小さい結果となっているね。ちなみに、練返し時間20分時の一軸圧縮強度は、多摩ローム層試料(qu=約9.8~14.7kN/m2)、武蔵野ローム層試料(qu=約20~29 kN/m2)、立川ローム層試料(qu=約74~78 kN/m2)程度に強度低下していて、特に、多摩ローム層試料が79~87%程度の強度低下率を示しているよ。表-1 には、多摩ローム層試料の初期強度からの強度変化を図-3 から読み取りまとめているよ。一方、この強度低下した試料は放置しておくと回復することも知られているね。文献5では、「年代の新しいアロフェン質のローム層試料(立川ローム層試料)の方が「回復程度」が大きい。」ことを指摘しているね。
図-3 各種ローム層試料の繰返し強度低下曲線(文献5)
表-1 多摩ローム層試料による一軸圧縮強度の変化と強度低下率(文献5より作成)
多摩ローム層に関するまとまった物性は、ほとんど公開資料の中では残念ながら見つけられませんでしたが、日本の特殊土(文献6)によれば、地山の含水比に関する記載があります。表-2 に示しているように多摩ローム層の自然含水比は、下末吉ローム層よりは高含水で、武蔵野ローム層よりはやや低いものの、バラツキは大きいと考えられるね。
ところで、最後に、池上さん、関東さん!! 関東ローム層中の鉱物組成(文献7)についてみてみましょう。❶立川ローム層では「橄欖石が非常に多く、次に紫蘇輝石が多い」、❷武蔵野ローム層では「橄欖石が少なく、輝石が多い」、❸下末吉ローム層では「有色鉱物は多くなく、上部では風化した赤色橄欖石が多く、下部では角閃石、輝石もある」、❹多摩ローム層の多摩丘陵北部では、「角閃石と磁鉄鉱が非常に多く、橄欖石はまれで輝石や黒雲母を含む」が神奈川県南西部では「橄欖石、輝石を多く含む」など各ローム層および地域によってかなり構成鉱物の種類や含有度合いに差異があるようですね。
表-2 関東ローム層の地山含水比(文献6及び文献8より作表)
なお、多田敦他(★:文献8)では、飽和透水係数のオーダーが示されており、多摩ローム層は難透水性材料に相当するみたいですね。
最後になりますが、今回で関東ローム層の紹介がすべて終了します。十分に紹介できたとは言えないのが心苦しいです!!私たちも皆様からの情報を頂き、当組合で実施した物性データを各地層にグルーピングしてデータベース化する必要性を痛感しました。
★参考及び引用させていただいた主な文献・出典など
- 1) 貝塚爽平:「東京の自然史」,講談社学術文庫,2020年12月.
- 2) 出典:東大和市どっとネット:「大まかな歴史の流れ」、豊鹿島神社奥の宮.
- 3) 大岡昇平:「武蔵野婦人」,新潮文庫,令和3年5月.
- 4) 吉沢健吾・高橋修:「都会で見られる露頭を題材とした環境教育:神奈川県生田丘陵に分布する更新統を例に」,東京学芸大学紀要,自然科学系,63;41-52,2011.
- 5) 足立忠司・前田隆・竹中肇:「日本の特殊土壌(その2):火山灰土(その1)―関東ロームなどの火山灰質粘性土―」,農業土木学会誌,第51巻,第9号,1983.
- 6) 日本の特殊土,土質工学会編.
- 7) 土の話Ⅲ:「2ロームと赤土」,土質工学会土のはなし編集グループ編,技報堂出版株式会社.
- 8) 多田敦・山崎不二夫・竹中肇・安富六郎・田渕公子:「関東ロームにおける新期ロームと古期ロームの物理的性質の比較」,農業土木学会論文集第14号,1965.
池上です! 第11回の話題提供はいかがでしたか? 狭山丘陵、武蔵野婦人、生田緑地など今回も話題が沢山ありましたね。さて、次回の第12回は、関東地方の土質「(秩父帯などの基盤岩層)」の話題提供となります。どんな話題が出てくるのでしょうか?
私、「武蔵野婦人」読んでないのですけれどどうしましょう! 真理子先輩!❕
以上