関東土質試験協同組合
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第12回目
「関東の地盤を知ろう!」

総務係長「土橋」

皆さん‼ 久しぶりですね。土橋です。今回は、「関東地方の土質」第12回目(秩父帯などの基盤岩層)」)についての紹介です。ではどんな内容がまっているのでしょうか? 皆さん!期待できますよ! では大森係長お願いします!

大森係長

今回は、「関東の土質」の最終編となります。「長瀞・秩父」を中心として紹介したいと考えています。この間、「空君」が久しぶりに顔を出しましたよ。なんと家族で「長瀞・秩父」に1泊2日で旅行に行ったそうです。そこで、長瀞の舟遊びや荒川の河岸の石畳や「虎岩」、埼玉県立自然の博物館などを見学してきたみたいですので、皆さんに長瀞・秩父帯についての紹介をしたいと考えていたところです。
 長瀞・秩父一帯は、「ジオパーク秩父(秩父地域1市4町)」に指定されていて、勿論観光地として有名な場所ですが、「日本地質学発祥の地」としても大変知られている場所です。「ジオパーク秩父(大地の守人を育むジオ学習の聖地)」(出典1)等によれば、1875年(明治8年)に若干20歳で東京帝国大学理学部地質学教室の初代教授となった「エドムント・ナウマン」は、1878年(明治11年)に、秩父、長野、山梨、神奈川の地質巡検を行っているようです。ちなみに、浜名湖付近で発見された新種のゾウの和名を「ナウマン博士」の名を冠して「ナウマンゾウ」と命名したのは、地質学者の「槇山次郎(まきやまじろう)」です。また、ナウマン博士の弟子で、大塚専一は、秩父周辺の地形・地質について「秩父盆地」や「秩父古生層」などと命名しています。

写真-1 日本地質学発祥の地の記念碑
写真-1 日本地質学発祥の地の記念碑

写真-2 長瀞の石畳(三波川帯の結晶片岩)
写真-2 長瀞の石畳(三波川帯の結晶片岩)
大森係長

新第三系の「秩父盆地層群(約1,700万年~1,500万年前)」の地質からは、パレオパラドキシアの化石が、さらに、チチブクジラ、チチブサワラや魚類、貝など多彩な化石類も発見されていますよ。平成28年3月1日には、「古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群」として秩父盆地の6つの地質と、9つの化石群が国の天然記念物に指定されています。このなかには小鹿野町の「ようばけ」や「犬木(いぬぎ)の不整合」、パレオパラドキシア、チチブクジラなどが指定されています。

写真-3 小鹿野の「ようばけ」
写真-3 小鹿野の「ようばけ」

写真-4 取方の大露頭(スランプ褶曲)
写真-4 取方の大露頭(スランプ褶曲)

写真-1には「日本地質学発祥の地の記念碑」を、写真-2には長瀞の石畳を、写真3には小鹿野の「ようばけ」を、写真-4には取方の大露頭(スランプ構造)について羽田課長が撮影した写真を掲載しています。また、パレオパラドキシアの骨格標本を写真-5に、「犬木(いぬぎ)の不整合」の露頭写真を、写真-6に掲載しています。

写真-5パレオパラドキシアの骨格標本(おがの化石館:出典8)
写真-5パレオパラドキシアの骨格標本(おがの化石館:出典8)

写真 -6犬木の不整合(第三紀層と白亜紀層)
写真 -6犬木の不整合(第三紀層と白亜紀層)
新入社員の関東真理子さん

大森係長!!この骨格標本ではなんだかわかりません!怖そうですけど!!!
恐竜でしょうか? 京子ちゃんわかる⁉

池上京子

関東先輩! 私知っています。一度、埼玉県自然の博物館に行ったことがあります。確か「マナティーやジュゴンなどの海牛類の祖先」だったと記憶していますけど。

土質試験課の羽田課長さん

へーえそうなの!ところで、埼玉県立自然の博物館(秩父鉄道「上長瀞駅」下車)荒川側の駐車場には宮沢賢治の歌碑があるのを知っているかい! 写真-7には、荒川の河岸にある「虎岩(褐色の結晶片岩の一種)」について載せているからね。
 さらに、「虎岩」について宮沢賢治が呼んだ歌碑については、写真-8に掲載しているよ。

「つくづくと「粋なもやうの博多帯」荒川ぎしの片岩のいろ」

写真-7 虎岩(スティルプノメレン片岩)
写真-7 虎岩(スティルプノメレン片岩)

写真-8 宮沢賢治の歌碑
写真-8 宮沢賢治の歌碑
土質試験課の羽田課長さん

宮沢賢治は、盛岡高等農林学校在学中の1916年(大正5年)9月に、埼玉県の熊谷市、寄居町、長瀞町、皆野町、小鹿野町、秩父市への「地質巡検」に出かけていることは知っているかい? 宮沢賢治は「秩父巡検」で、緑泥片岩、閃緑岩、斑レイ岩、輝岩、蛇紋岩、滑石片岩、絹雲母片岩、石墨片岩などの岩石標本を採集していたようで、地質学に大変造詣が深い文学者であったと考えられるね。
 宮沢賢治以外の有名人では、幸田露伴の埼玉県内及び秩父(三峰・武甲山など)に関する旅紀行文「知々夫(ちちぶ)紀行」が挙げられるよ。さらに、地質学に深い造詣を有する画家としては、1898年(明治31年)群馬県富岡生まれの福澤一郎がいますよ。福澤一郎(文献2)は、日本に前衛運動であるシュールレアリスムを紹介した洋画家として有名で、代表作は、「科学美を盲目にする」、「四月馬鹿」、「阿修羅」、「餓鬼の大集合」などがあり、平成3年に文化勲章を受章しました。彼は、両神山をはじめ奥秩父の山々を幾度となく探索し、地形・地質等についての専門用語をふんだんに盛込んだ貴重な紀行文を「秩父山塊」として残しているよ。

池上京子

羽田課長!! 秩父と言えば、この間、土曜サスペンスで恵俊彰主演の「はぐれ署長の殺人急行2」秩父SL迷宮ダイヤを見たら、秩父盆地、SL秩父エクスプレス、武甲山や長瀞の石畳などの観光資源がストーリの背景としてふんだんに活用されていました。なかなか楽しめました!

土質試験課の羽田課長さん

令和さんそれはよかったね。秩父の風景が頭に入ったので、では、秩父地域の地質の概要を説明するよ。
 秩父地域がある関東山地北東部には、ほぼ北から南に、三波川(さんばがわ)帯(結晶片岩類)、御荷鉾(みかぶ)緑色岩類、秩父帯、山中白亜系、秩父盆地(新第三系)、四万十帯(緑色岩、石灰岩、チャート、砂岩、泥岩など)が分布しているようだね。だから、長瀞付近の結晶片岩は、三波川帯によるものだよ。なお、セメント製造に使われる石灰岩のベンチカット工法で有名な「武甲山」や秩父市域では秩父帯(ジュラ紀の付加体)で、緑色岩、石灰岩、チャート、砂岩や泥岩がみられるようだね。
 では、関東さん! 関東山地の代表的な岩石である「結晶片岩、チャート、石灰岩、緑色岩」などの物性に関するデータはなにかあるかな?

新入社員の関東真理子さん

土質材料ではないので、私よくわからないですけど。岩石の吸水率とか有効間隙率とか一軸圧縮強度や超音波速度などなら見つかるかもしれませんね! 各種岩石の物理・力学的性質をまとめた文献としては、古いですが、小島圭二他(文献3)があります。私の独断で、この中の堆積岩類と変成岩類とについて抜粋して表-1 を作成してみました。なお、粕谷憲司(文献4)の一部の片岩についても同表に追記しています。堆積岩類の「砂岩」では、密度が1.9~2.6g/cm3、空隙率は0.5~42%と大きくばらついています。湿潤状態の一軸圧縮強度(σ)は103~255MN/m2程度のようです。チャートでは、密度が2.6~2.7g/cm3程度で、同じく湿潤状態の一軸圧縮強度は87~183MN/m2程度の物性値になっています。

表-1 代表的な岩石の物理的・力学的性質(文献3及び文献4から加工)
表-1 代表的な岩石の物理的・力学的性質(文献3及び文献4から加工)

新入社員の関東真理子さん

また、大久保彪他(文献5)は、各種岩石試料のP波速度(超音波パルス法による)と密度との関係をまとめています。図-1 は、両者の関係を示していますけれど、片岩、片麻岩などの変成岩の分布域をみると、速度で4.5~7㎞/sec, 密度で2.5~3g/cm3程度で、特に2.7~2.9g/cm3が多く、火成岩や堆積岩に比べバラツキも少なく高い値を有していることが理解できますね。

図-1 密度(ρ)とP 波速度との関係(文献5)
図-1 密度(ρ)とP 波速度との関係(文献5)

大森係長

関東さん!よく調べたね。では、物性面から変成岩についての特徴があると思うけど、どんなことか想像できるかな。
 変成岩は、熱や圧力が加わることで、構成鉱物の組み合わせや鉱物化学組成が変化する現象を被った岩石で、接触変成岩と広域変成岩とが代表的です。特に、地下深部で大きな圧力を受けて変形した「片岩」や「片麻岩」などは強い面構造を持った岩石で、面の方向によって強度や速度特性が大きく変化することが特徴となっていますよ。これらについては、古くから研究がされていますね。粕谷憲司(文献4)、赤井浩一他(文献6)、杉田信隆他(文献7)などは、石英片岩や結晶片岩、緑色片岩などの岩石の強度や弾性波速度の異方性について検討しているよ。例えば、粕谷憲司(文献4)では、各種の異方性岩の節理、片理、葉理の傾斜角と一軸圧縮強度との関係を調べていて、「いずれの試料でもバラツキが認められるものの、加圧方向(鉛直)から30°~45°で最小値をとるような下に凸の曲線的傾向を示している。」ことを指摘している。図-2 には、文献4の傾斜角と一軸圧縮強度との関係を示しているので、関東さんも良く考えてみてね。特に、伊方緑色片岩や安曇花崗岩(節理あり)が顕著な傾向を示しているね。

図-2 異方性岩石の傾斜角と一軸圧縮強度との関係(文献4)
図-2 異方性岩石の傾斜角と一軸圧縮強度との関係(文献4)

土質試験課の羽田課長さん

大森係長!!異方性岩の弾性波速度の異方性については、どうかな?

大森係長

そうですね。例えば、杉田信隆他(文献7)は、三波川帯の緑色片岩について片理方向別(鉛直軸からの傾斜角0°、30°、60°、90°)の供試体の乾燥・湿潤状態別に、高封圧0~1000㎏/cm2(0~約98MN/m)の領域にわたって弾性波速度(P波、S波)の特性を調べていますね。図-3 及び図-4 傾斜角別のP波速度と、S波速度との関係を図化しています。

図-3 片理方向別の封圧とP波速度との関係(文献7)
図-3 片理方向別の封圧とP波速度との関係(文献7)

図-4 片理方向別の封圧とS波速度との関係
図-4 片理方向別の封圧とS波速度との関係(文献7)

これらの図から、P波速度、S波速度ともに封圧の増加に伴って速度値は増加しているが、片理方向の違いによる速度値は、0から90°の順に小さくなっていること、P波速度に比べS波速度の方が片理方向による速度の異方性の影響は少なくなっているように見られますね。また、図-5に示すように封圧下の弾性係数は、封圧の増加に伴い、ほぼ直線上に増加し、片理方向別にみると、90°、60°、30°、0°の順に弾性係数は大きくなっているようです。なお、ポアソン比については、封圧の増加に伴う変化はかならずしも顕著ではなく、ほぼ横ばいの状態であったと記載されているね。

図-5 片理方向別の封圧と弾性係数の変化(文献7)
図-5 片理方向別の封圧と弾性係数の変化(文献7)

一方、赤井浩一他(文献6)においても、緑色片岩の表乾状態、24時間気乾状態の供試体の大気圧下の測定では、層方向の傾斜角が0°から90°の順でP波速度が低下しており、0°と比較すると90°の供試体では、48%ほど速度値が低下しているなどP波速度は層方向αの影響を大きく受ける結果となっています。

池上京子

大森係長!! 緑色片岩などの片岩類には均質岩とは異なる様々な要因に左右されて、物性値も一定ではないのですね!びっくりです! 試験を行う時には、どの条件や状態での測定値であるかも十分意識しないとだめですね! 秩父は大変勉強になる場所です!
 では、締めの挨拶の案内は、私が仕切らせて頂きます。羽田課長!最後のご挨拶をお願いします!!

土質試験課の羽田課長さん

皆さん! 私共の独断と偏見とで12回にも及ぶ話題を提供させて頂きましたが、今回をもって一旦終了とさせて頂きます。つたない解説文の集合体でしたが、多くの方々のご協力に支えられた結果であると考えております。大変お世話になり、ありがとうございました。またの再会を楽しみにしています。感謝!感謝!

★参考及び引用させていただいた主な文献や出典など

  1. 1)出典:「ジオパーク秩父(大地の守人を育むジオ学習の聖地)」
  2. 2)福澤一郎(池内紀編者):「秩父山塊」,五月書房,1998.
  3. 3)小島圭二・中尾健司:「地質技術の基礎と実務」,鹿島出版会,1995.
  4. 4)粕谷憲司:「異方性層状岩の強度・弾性波速度・変形及び破断面の特性等に関する実験的考察」,応用地質,20巻,3号,1979.
  5. 5)大久保彪・寺崎晃:「岩石の物理的性質と弾性波速度」,土質工学会,土と基礎,19-7,July,1971.
  6. 6)赤井浩一・山本和夫・有岡正樹:「結晶片岩の構造異方性に関する実験的研究」,土木学会論文報告集,第170号,1989年10月.
  7. 7)杉田信隆・牛田稔・荒川哲一・谷口晶則:「封圧下における片岩類の弾性波伝播特性にみられる異方性の影響について」,日本応用地質学会,昭和60年度研究発表会予稿集,1985,10月.
  8. 8)出典:小鹿野町「おがの化石館」館内展示標本.
  9. 9)出典:埼玉県自然の博物館.

以上

南大田小3年の空君

空です!!皆さん!今回で終わりになるってマリコおねえさんから聞きました。本当に残念です。最後に僕から一言紹介させてくださいね。秩父に遊びに行ったので知っているけれど、「和銅開珎(わどうかいちん)」の記念碑について触れていないので僕が紹介します。「秩父産の銅が朝廷に献上されて、年号が【和銅】になり、日本最初の流通貨幣「和銅開珎」が造られた」そうですよ。すごいですね秩父は!!

埼玉県自然の博物館(文献9):銅鉱石の標本

埼玉県自然の博物館(文献9):銅鉱石の標本

本当の最後です!!皆さんサヨウナラ!!!

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