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組合情報・ニュース
第1回目現場と土質試験のあれこれ
国土のインフラ整備を推進する上で、地質調査は後続する設計・施工・維持管理への橋渡しとして重要な役割を担っています。具体的な調査項目は既往資料収集整理、現場踏査、ボーリング、原位置試験、物理探査、室内土質試験、動態・地下水観測など多岐にわたります。この内、室内土質試験はサンプリング試料を用いて土質の判定や、解析・設計用のパラメータを得る目的で行われています。一方、我が国では殆どのボーリング調査に標準貫入試験が組み込まれているため、土質試験なしでもN値より大抵のパラメータが推定できますが、国土の地盤状況が複雑で不均質、地質リスクに起因する施工中の事故が後を絶たないという現状を踏まえると、詳細なボーリング調査に加え、室内土質試験を適切に実施することが、地盤情報をより精度よく把握する上で重要であるということは言うまでもありません。
関東土質試験協同組合では技術コラム「関東の地盤を知ろう」に引き続き、新規コラム「現場と土質試験のあれこれ」を2022年9月より2カ月に1回の割合で、2024年1月まで掲載します。様々な業務で奮闘した興味深い思い出話が順次紹介されます。本コラムをシリーズで拝読して頂き、地盤調査での土質試験の社会的役割の再確認、顧客満足向上、自己研鑽に役立てていただければ幸いです。
1.大規模宅地造成工事における試験盛土
副理事長 中山健二
入社早々、はじまったばかりの大規模宅地造成工事の試験盛土の現場に従事した。試験室の先輩方と技術1課の私を含め総勢8名で現地入り、私はレベル測量と砂置換法による現場密度試験を交互に担当した。試験ヤードの周りはゼネコン社員、土工機械を扱う協力業者が時に大声を張り上げて施工管理をしている。学生時代に工事現場でアルバイトをしたことはあったが社会人として携わるのはこれが初めて。この時、土木工事現場の勇ましさに感動した記憶が鮮明に残っている。
試験ヤードでは図.1のようなタイヤだけでも身の丈ぐらいある積み込み満載の牽引式モータースクレーパーが次から次へとやってきて砂埃を上げながら岩砕盛土材がまき出され、ブルドーザが敷き均し、転圧機が締め固める。スクレーパーは荷台から岩砕をこぼしながら制限速度一杯で走行するが、ぼ~っとしていると飛び石被害にあうので重機とは十分な離隔と注意が必要であった。
図.1 牽引式モータースクレーパー(運搬・まき出し)
盛土材料は堆積軟岩である砂岩、凝灰岩・これの混合による3種類、締固め機種は2種類、巻き出し厚は3種類、このような組み合わせとなる図.2のような試験ヤードを重機オペレータが時間をかけて丁寧に仕上げた。試験は5パターン程度の転圧回数を設定し、1パターン締め固める度に、我々は所定の位置でレベル測量、現場密度試験を3個/箇所となるように実施した。手際よく作業しないと次の転圧を控えたオペレータの機嫌がよくない。このような作業を数日間実施したが、天候急変に備えたシート養生もしっかり対応、ヤードが広いため設置・撤去に時間がかかり、現場を後にするのはいつも日没後だった。
図.2 試験盛土の試験ヤードイメージ図
試験盛土では砂置換法やRIによる現場密度測定、締固めによる圧縮量の計測により、盛土材料に応じた巻き出し厚と転圧回数、締固め機械の関係が明らかになり、所定の締固め度が満足できる最適な盛土の施工管理基準が提案できた。同時に締固め試験、三軸圧縮試験(ρdmaxに対し3種類の密度で供試体作成)、物理試験、スレーキング試験を実施して、盛土材料特性を把握し、後々の盛土の安定検討に活用した。
同現場は自宅から近いこともあり、造成工事完了までの5年間、下記のような仕事を担当させて頂いた。
- 定められた盛土量毎に現場密度試験を実施し、乾燥密度(ρd)が所定の締固め管理基準値(一般的にはρdmaxの85%や90%で設定)を満足できているかどうかの判定
- 所定の切土量に応じて締固め試験を実施して管理基準値を修正
- 盛土高3m毎に設置した沈下素子の鉛直変位状況を基礎パイプ内部から定期的に計測する層別沈下観測(段階盛土の沈下~収束経時変化をロール状方眼紙にプロットして見える化・・今では考えられないようなアナログ作業)
- 計画盛土高に達した盛土ブロックの締固め度合いを把握するためのチェックボーリング(盛土のN値計測で深度方向の締固め状況を判定)
- 切土法面安定調査(ボーリングや切土観察による地山評価)
- 長大盛土法面のボーリング(盛土のN値計測で深度方向の締固め状況を判定)
- 同ボーリング孔を用いたパイプ歪計による動態・地下水観測で法面の安定度を評価(降雨との応答や相関性を把握、経日変化図や歪柱状図にプロットして見える化・・今では考えられないようなアナログ作業)
- 壁体構造物の支持地盤調査
- 隣接用地でのさく井工事の施工管理
以上のような地盤調査や土質試験を計画・実施・確認・評価・報告しながら土木工事一式を最後まで見届けた。直接的な工事には従事していないが、土工の施工管理を担う一人として一連の報告書(竣工検査図書の一つ)を完成させた時の達成感は入社して初めて味わうものであった。なお、当造成地は竣工以後、何回かの記録的な豪雨、1995年1月17日には阪神・淡路大震災を経験したが、地盤変状や災害は一度も発生していない。したがって、盛土の動的・力学、排水機能に加え、内部に設けられた防災排水施設の機能も持続しているようである(有事の時には担当した現場がどうなっているか気になりますね!技術屋の性でしょうか?)。
当時の現場事務所は食堂・風呂付で宿舎も兼ねたプレハブ2階建てであり、働き方改革推進中の今では考えられない飯場タイプ、ゼネコン社員は皆、遅くまで働いていた(ちょっとブラックでしたが当時はこれが当たり前)。所長を含め皆さん気さくで、他の担当業務の悩み事にも施工者の立場で助言を頂いたことが何度もあった。一方、この業務を契機としてゼネコン本社設計部の方ともなじみとなり、引き合いはダイレクトに来るようになった。
数年後、技術士口頭試問の折に成功談を求められたが、この造成現場の経験を話したところ試験官は3名とも大きく頷いた。若き頃の私の背中を押してくれた貴重な業務であった。
以上