関東土質試験協同組合
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第2回 現場と土質試験のあれこれ

河川堤防の土にまつわる話

株式会社地圏総合コンサルタント
常務取締役 佐渡耕一郎

1. 元はと言えば

 組合ホームページの新連載コラムである“現場と土質試験のあれこれ”に寄稿を依頼され、本当に何を書こうかと大変迷いました。と言うのも、平成元年に地質コンサルタント会社に入社して約10年間は、水力発電のダムや地下施設、道路・水路トンネル事業に関わる岩盤を対象とした調査に携わる機会がほとんどで、その頃には土質試験の基礎知識はおろか、標準貫入試験を併用したボーリング調査さえ経験したことがなかった、そのような社会人としての生い立ちがあったからです。
 元はと言えば、主に岩盤を対象とする調査に携わっていた私が、本格的な土質調査業務に関わり始めたのは平成10年頃からです。「つくばエクスプレス」や「圏央道」といった関東平野内で計画されていた大型の建設プロジェクトが佳境を迎え、平野を構成する様々な土質地盤を対象とした調査に携わることが出来ました。

 記憶に残っている現場は様々ですが、中でも当時の土質試験組合の職員の皆さんや大学の先生方と、色々な相談や議論を重ねながら進めたことで非常に自分自身が成長できたと思う調査業務が、廃棄物等の異物を混入する埋め立て地盤の物性を評価する現場でした。大規模な橋梁基礎区間では、関東平野を構成する主要な地質層序のコア試料と各種物性を一通り確認することが出来ました。そして、その最上位を被覆している異物を含んだ埋め立て地盤が、道路盛土に伴ってどのように挙動するのか、これがその業務最大のテーマでした。多くの原位置試験とやや特殊な室内試験を繰り返し、横方向の変形量は小さいにも拘わらず、縦方向には大きく圧縮変形し、プレロード後の除荷に伴って体積がほぼ元通りにリバウンドするような地盤特性であることが分かりました。その他にも様々な実験を行うために、組合の試験室をお借りしたこともあります(写真-1)。

2.河川堤防に携わるようになって

平成18年頃からは、手引き類の改訂に伴っていわゆる「河川堤防の浸透に対する安全性照査」が全国一斉に行われるようになり、これらに関連する土質調査にも、東北・関東・九州といったエリアの直轄河川で数多く携わりました。目的に応じた調査内容も、一般的なボーリング調査(標準貫入試験、原位置試験、サンプリング併用)から三成分コーン貫入試験やスウェーデン式サウンディングを用いた地盤調査、物理探査(表面波探査、S波探査、電気探査、レーダー探査)、開削調査(堤防開削、樹木根系、旧構造物、巣穴)(写真-2)、横断構造物や護岸の点検調査、各種実験調査(破堤実験、改良土実験、植生実験)、ドローンを用いた堤防調査など様々です。この時の経験の数々は、今でも地質技術者としての大きな財産になっています。


写真-2 堤防開削調査の様子

皆さんもよくご存知だと思いますが、河川堤防の土には河道掘削で生じた浚渫土が一般的に用いられます。また、一部では近傍の建設工事などで生じた建設発生土が用いられることもあります。このため、河川堤防の土は、対象とする河川によってその特徴が大きく異なります。同一水系内の河川堤防であっても、上・下流部での粒径の違いはもちろん、後背地の地質や地形場が違えば、支川毎に堤防の土ならびに基盤土質の性状は様々に異なります。特に九州で河川堤防の調査に携わっていた時には、後背地の地質変化も顕著であったため、コア試料を見れば、どの河川のどの支川のどの辺りで採取されたものかがおおむねわかることもあるほどでした。
 浸透に関する調査検討では、一定の特徴を有する堤防区間(一連区間)内に代表地点(代表断面)を設定し、基本的な物理特性に加え、強度特性、透水性などを把握して、その結果に基づいて高水前後の浸透流解析や安定解析、嵩上げ・腹付け築堤(断面拡大)が必要な箇所では沈下解析などを行います。ですので、上記したような水系内での土質の違いを十分に踏まえた調査計画を立案することが重要になります。その中でも、支川との合流付近や横断構造物、河道堰設置区間近傍などでは、極端に堤防の土の性状が異なることがあって、驚きと共に、色々と苦労した覚えがあります(写真-3)。

写真-3 堤防土の縦断方向の変化の例(左:真砂土、右:火山灰質砂質土)

さらに、河川堤防には過去の治水の歴史が、複雑な築堤履歴として刻まれています。関東の江戸川などの河川堤防が、複雑な築堤の歴史を経て現在の大きさ・断面形状になっていることは、教科書に掲載されるくらい有名な話ですが、地方のさほど大きな規模ではない河川堤防にも、必ず築堤履歴による土質の変化があります(写真-3)。ですので、河川堤防で土質調査を行う際には、事前に必ず地点の築堤履歴を把握し、最適な調査計画(ボーリング配置、原位置試験・サンプリング計画等)を立案する必要があります。また、横断構造物を撤去する際などに堤防の開削断面を詳細に観察し築堤履歴を記録するのも、河川堤防を適切に管理していく上での貴重な基礎資料とするためです。

写真-3 堤防横断面に見られる複雑な築堤履歴の例(河道浚渫土と山の土が混在)

3.土質とは関係が無いような話


写真-4 堤防深部まで巣穴が形成された例

 いわゆる土質調査とは関係ない話のようですが、某河川で動物の巣穴が頻繁に観察され問題となった事案を担当したことがありました。モグラによる直径数㎝ほどの巣穴が堤防表面に見られる事例は多く、これはこれで管理上の問題になっていますが、この事案の巣穴は縦横=20×30cmほどのはるかに大きなサイズでした。そして、その巣穴の到達範囲で最も大きなものは、出入口は2つでしたが、堤防川裏の法尻から堤防天端に向かって約9mの奥行き(天端直下)、上下流方向に約10mの枝分かれによる網状の広がりを有していました(写真-4)。
 “蟻の一穴から堤も崩れる”という言葉があります。堤防の機能からするとそれどころではない大きな問題となる事象でしたが、巣穴の住人がいないことを確認してこの堤防は補修されました。なぜ、このように大きな規模のコロニーが形成されたのでしょう。この箇所では、堤防直下の基礎地盤が自然堤防(微高地)を形成する細粒の真砂土とその上位の粘土層からなっており、この土質で堤防原型を形成すると共に、これらを川表側から覆うように締まりの良い砂質シルトで堤防を築堤・拡幅されていました。川裏に笹やぶがあって人目に付きにくいことも要因ではありましたが、掘りやすく水はけのよい真砂土がちょうど河川の平水位よりも高くなる微高地を形成していて、その上部と前面に頑丈で雨漏りや高水時の浸水も防いでくれる粘土やシルトの天井がある環境で、非常に住み心地が良かったのではないかと思います。東日本大震災の際には、液状化被害を受けた堤防で“閉封飽和帯” が形成されていたことが話題となりましたが、昔ながらの経験と知恵に基づく地形や土の特性を生かした築堤構造は、基本的に堤防内をドライで安定した環境に保持するのだとあらためて実感した現場でした。


写真-5 土質配合による表面亀裂や芝の根付きに関する実験の例

 話は変わりますが、河道浚渫土を用いた築堤では、採取した土が必ずしも堤防に適した粒度分布ではなく、砂勝ちであったり粘性土勝ちであったりすることがしばしばあります。砂勝ちの材料による築堤ではいわゆる堤防の粘り強さが損なわれて侵食されやすく、浸透も進みやすくなることがありますし、高含水の粘性土勝ちの材料を用いた築堤では表面亀裂の発生が問題になったりします。また、礫材の混入程度であれば許容の範囲ですが、浚渫場所によっては多量の植物根が混入する場合もありますし、変わった事例では、戦後復興の際に植樹された桜が伐採されて根だけが残っている例や、地域によっては石炭ボタや軽石等が混入する事例もあります。
対象河川での発生土を用いて、堤防材料として適切な砂と粘性土の配合比を求める実験や、石灰やセメントを用いた堤体改良土の実験を担当した際には、土質試験や原位置試験によって、物理特性や強度特性、透水性などの基本物性がどの程度改善され、総合的な粘り強さを増すのかを把握することはもちろん、経年的に堤防としてどのように挙動するのか、設置箇所の基礎地盤とのなじみはどうか、堤防管理に重要な芝等の植生との相性はどうか、雨水浸透によってどのような成分が流出するのかなどが重要な観点でした(写真-5)。いずれも、いわゆる構造物支持層や人工改変対象地盤に対する評価とは少し異なる観点で、自然や人々の暮らしに密接に関わりを持つ、長大な土構造物としての河川堤防ならではの目線であったと思います。

4.さいごに

 とりとめのない経験談に終始してしまいました。土質試験を行って土の物性を知ることは土質調査の基本中の基本です。そして、その結果知り得た知見は、様々な建設事業における地盤定数として取り扱われるだけではなく、時間の経過と共に、その後の維持管理や自然との共生といった様々な段階で現れる事象を理解する上でも非常に重要なものです。土の物性値が持つ意味を、構造物設計の観点から定量的に理解するだけではなく、その土質がどのような条件下でどのように挙動し人々の暮らしとどのように関わっているのか、自然環境のもとで動・植物にどんな影響を与えるのか、現場で起こっていることをよく観察しながら、そんなことを定性的に考察してみるのも非常に面白いことだと思います。

<おわり>

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