関東土質試験協同組合
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第4回 現場と土質試験のあれこれ(体験談)

理事長  小田部雄二

1. 現場での出逢い

私は大学時代の昭和52年(1977年)頃から、アルバイトでボーリングの助手を行っていました。当時は大きな意味での高度経済成長時代で、高速道路や新幹線などの社会インフラ整備に伴う地質調査が数多く発注されていました。ボーリングの助手は、当時のアルバイトの中でも日給が高く、荒天で現場が中止になった時でも雨天手当を頂けたことや、全国各地への出張もあったので、とても楽しく働いていました。図-1は我が国の社会資本整備のうち、高速道路計画の変遷を示したものです。昭和40年(1965年)以降に計画延長が急伸していることがわかります。新幹線路線計画も相まって整備されてきています。


図-1 我が国の高速道路計画の変遷1)

学生の当時は地質調査など知る由もなく、ボーリングの機長の指示に従ってコアチューブにロッドを繋いだり、標準貫入試験のために三又(櫓)に登ったりと、黙々と作業をこなしておりました。主な作業としては、ペネ管(標準貫入試験用サンプラー)を開いて、採取した土質試料をビニール袋に詰める作業があり、忙しくこの作業を繰り返していました。単純な作業でしたが、これが地面の下の奥深くにある土と、私の初めての出逢いでした。採取された土の中に貝殻を見つけると、機長から「この辺りは、昔は海だったんだぞ!」と教えていただきました。当時はよくわかっていませんでしたが、その後、地史を勉強することで理解することができました。
 現場によってはコア試料採取を行うことも多く、コア箱に連続して採取したコア試料を並べると、地盤構造がリアルに見えるので感動した覚えがあります。もちろん当時は、このように採取された土や岩の試料がどのように活用されるかなどには思いも寄せず、一人の若い助手として黙々と現場を渡り歩き、アルバイト代を稼いでいました。


図-2 標準貫入試験試料の例2)

図-3 コア採取試料の例3)

2.土質試験との出逢い

ボーリング助手のアルバイト要請が無い時には、土質試験室のアルバイトも致しました。様々な土質試験のお手伝いを致しましたが、中でも材料試験では多くの体力を使いました。前述のボーリングの助手と同じで、その目的を理解することもなく、黙々と山積みされた土嚢袋に詰められた土を、手動のランマーでモールドに突き固めていました。腕の筋肉が鍛えられると共に、丁寧に多層に締め固める段階で、土が固くなっていくことを体験いたしました。粒度試験では大きなメスシリンダーを振るのがとても難しく、先輩諸氏の匠の技を感じました。もちろんこの作業で粒度特性が明らかになることなど全く理解することなく、その後、土質試験を勉強することで、徐々にその謎が明らかになっていきました。
 乱れの少ない軟弱粘性土の試料を押し出したときは、試料の表面がきらきらと光沢を放ち、陶磁器のようなその美しさに感動しました。


図-4 室内土質試験の作業の一例4)

3.現場から土質試験室へのバトン

アルバイトの延長で入社し、現場管理を担当するようになってからは、現場で採取した乱れの少ない試料を、工期が差し迫っている時には、現場から試験室まで人力で運んだこともあります。現場管理を通して、少しずつ土質力学などの理論背景を勉強し、土質試験の重要性を徐々に認識していきました。その中で、現場から土質試験室へバトンを渡すときの配慮がとても大切であることを知りました。現場ではシンウォールライナーの刃先の突出具合などをチェックして採取率の向上を図ることや、試料採取後はできるだけ衝撃を与えず試料運搬箱に収納し、夏は日陰に、冬は暖かい車内等に静置していました。
 土質試験室への運搬では、車両の後部座席に毛布等を敷き、できるだけ振動や衝撃を与えないように注意しました。試験室に搬入すると、土質試験の項目などを打合せし、試料の抜き出し日程を決めました。当時は、上司はもとより諸先輩方からも、できるだけ試料を抜き出すときには、担当者が立ち会うことを指導されていました。試料の抜き出し状況は、アナログ写真やサンプリングカードに記録されてはいるのですが、現場で採取した試料を直接目で見て手で触ることで、その重要性を感じました。
 ご存知のとおり、シンウォールライナーは中を見ることができません。頭の中ではきれいに採取されていると思い込んでいますが、時として、粘性土の中に貝殻や礫が混入していることや、砂が挟在していることもありました。当然、抜き出した試料を用いて土質試験を実施し、その後、さまざまな物理特性や力学特性が明らかになります。試料を見ることは、これら特性の基礎情報となります。
 例えば、強度特性の応力―ひずみ曲線で、一般的に脆性破壊形態を示すと想定される試料が、延性破壊形態や曲線の不連続性を示すなど、供試体内に何らかの要因が潜んでいることもあります。土質試験結果のエンジニアリングジャッジを行う時には、とても大切な情報となりました。

4.さいごに

ここまで述べて参りました稚拙な体験談は、私の歩んだ時代背景があったからこそ許されたのかもしれません。近年は、デジタル技術の進化や様々なマニュアルの整備が図られると共に、労務環境も厳しく管理される状況になってきているものと認識しています。現場によっては、現地立合いができず、採取した試料に触れることもなく報告書を仕上げているケースもあるかと思います。そのような中で、アナログな情報をどのように成果品に組み込んでいくか、さまざまな工夫が必要だと思っております。
 もちろん、可能であれば直接土に触れていただきたいとは願っておりますが、それがなかなか許されない状況でありましたら、リアルタイムでも対応できるWEB環境を活用した画像等で確認することも考えられます。これらのプロセスにおいて最も大切なことは、業務担当者と土質試験担当者のコミュニケーションだと思います。日々の業務の中でコミュケーションを十分に図るためには、相互の信頼関係を高め、気楽にやり取りができる環境作りが重要だと思います。これからも、全体的なコミュニケーションを図る場の提供は継続して参りますが、各担当者のみなさまにおきましても、連携強化のためのコミュケーション展開をお願い申し上げます。
 土のさまざまな特性を明らかにする土質試験は、とても重要な技術です。今後も更なる発展に努めて参りたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

<参考文献>
1)国土交通省HP:これまでのネットワークの経緯と検証,資料3,
 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/hw_arikata/pdf9/3.pdf
2)国土交通省中部地方整備局:道路設計要領,第2章地盤調査,p.2-1
3)全国地質調査業協会連合会:ボーリング野帳記入マニュアル‐岩盤編‐,p.57
4)地盤工学会:土質試験‐基本と手引き‐(第二回改訂版),p.32,p.72

以上

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