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組合情報・ニュース
第5回 現場と土質試験のあれこれ
株式会社 日さく 技術開発本部
専門部長 澤井 清人
設計を意識した土質試験について
1.はじめに
皆さんは、「地質調査」「土質試験」「設計」は、密接に繋がっていることは、ご存じのことでしょう。ほとんどと言っても良いと思いますが土質試験の多くは、地盤の挙動解析や構造物設計のために実施されます。そして土質試験に用いる試料の多くは、ボーリング調査における乱れの少ない試料(サンプリング試料)か標準貫入試験実施時に採取される土(ペネ試料)が使われます。
地質調査を実施することで、その場所の地層構成を把握し、採取した土を用いてその場所の土質定数を求めます。そして、これら情報を使って設計を行うことになります。
今回は、土質試験を実施したことで設計が変わった話、鋭敏比を求めることの利点、三軸圧縮試験(CU条件)における強度定数の求め方、の3つについて例に挙げ、土質試験をすることでより良い設計に繋がること、安全な社会に貢献していることをお話しいたします。
2.土質試験をしたことで設計が変わった事例(液状化判定)
土質定数の多くは、標準貫入試験により得られる N 値との換算式により算出することができます。 N 値があれば、設計に必要とするほとんどの土質定数が揃うと言っても過言ではありません。ここでは、 N 値があれば土質試験をしなくても良いのか?ということについて書きます。
地震時における液状化現象が発生するかどうかを予測する手法(以下、液状化判定)では、多くは FL 法という手法が使われます。これは、動的せん断強度比 R (繰り返しの揺れ発生後の地盤の強さを表します)と、地震時せん断応力比L (地震時の揺れの大きさや強さを表します)の比 FL = R/L を求めることで液状化判定をする手法です。 FL は液状化安全率と呼ばれ、 FL >1.0で液状化はしないと判断します。動的せん断強度比 R は、写真-1のような土の繰返し非排水三軸試験などの土質試験によって求める値ですが、通常では N 値による換算値が使われます。
表-1はある事業での液状判定結果を示したものです。前年度業務で N 値を用いて液状化判定をしたところ、 FL ≦1.0となり耐震補強が必要という結果となりました。そこで次年度業務にて、土の繰り返し非排水三軸試験(図-1参照)を実施して液状化判定を行ったところ、 FL >1.0という結果を得ました。土質試験を実施したことで、液状化判定結果が変わりました。
N 値による土質定数を設定する場合、統計的な処理を行った N 値を推定式に代入することが多いと思われます。よく行う統計的な処理は、平均値から標準偏差の半分の値を減じることです。低減した N 値を使った結果、小さめの土質定数が算出されます。また、液状化判定では一般的に N 値を使った方が小さな FL 値となるようです。小さめの値とは設計者にとっては安心出来る値とは言えますが、過剰・過大な設計となる可能性があります。また、 N 値による換算値自体が常に安全側の設計となるとは限りません。設計の方向性を定める段階では、 N 値による換算値は有効ですが、詳細設計や実施設計の段階では、土質試験を実施することが必要と考えます。
写真-1 試験装置(土の繰返し非排水三軸試験を実施)
図-1 土の繰返し非排水三軸試験結果(R=0.359を得た)
3.鋭敏比 St の提案(乱すと極端に強度が低下する土に対して)
建設現場では、土が乱された後の物性が施工性に大きく影響することがあります。例えば、建物の基礎構築のために掘削した地面(床掘り面、根切り掘削面とも言います)を乱してしまい地盤強度が低下すると、工事の進捗に支障が出たり、地下水の揚圧力により盤ぶくれが発生する可能性もあります。
こういった事を事前に把握するために、鋭敏比 St が有効です。鋭敏比とは、乱さない試料の一軸圧縮強さ qu と含水比を変えずに練り返した試料の一軸圧縮強さ qur の比( St = qu / qur )です(図-2参照)。また、図-3に示す土の状態図を用いることで、試料が鋭敏粘土なのか超鋭敏粘土なのかを分類することが出来ます。
関東周辺の台地の表層部には、関東ローム層や常総粘土層(以下、Lm層、Lc層)が分布しています。Lm層は直接基礎にて2~3階建ての建造物を支持可能です。また、軽くて比較的締固め易いことから、盛土材料としても便利な土であるとも言えます。一方、Lm、Lc層は乱すと強度が極端に低下することがあり、施工時においては少々厄介な土とも言えます。
図-2 乱さない土と練返した土の応力-ひずみ曲線1)
図-3 土の状態図(鋭敏比と液性指数の相関)2)
表-2と図-4にLm層とLc層に対して鋭敏比 St を求めた事例を示します。Lm層、Lc層ともに、乱すと1/3~1/5に強度が低下することが分かります。なお、Lc層は一部、超鋭敏粘土に分類されることから、施工時には注意を要する土であると判断出来ます。
図-4 土の状態図事例
4.強度定数(せん断強さ)について
地質調査でサンプリングした試料を用いて実施する土質試験で皆さんが最初に思い浮かべるのは一軸圧縮試験と三軸圧縮試験でしょう。一軸圧縮試験については少しですが鋭敏比 St で話しました。
三軸圧縮試験は排水条件(及び測定内容)により、UU,CU,CD,CUbarの4条件があります。1つ目の記号が圧縮前に供試体を圧密する(C)かしない(U)かを表していて、2つ目の記号が圧縮時に供試体から排水又は吸水をさせる(D)かしない(U)かを表しています。例えばCD条件の三軸圧縮試験(以下、CD試験と呼びます)は、圧縮前に供試体を圧密させ、圧縮時に排水または吸水させる試験です。
UU試験は、拘束圧を作用させた一軸圧縮試験と言えます。拘束圧を作用させることで、サンプリング時の除荷により発生した膨張や強度低下をある程度キャンセルさせることが可能です。CU試験は圧密による強度増加を考慮した試験であり、例えば盛土後の地盤強度を検討する場合に使われます。CD試験は圧縮破壊時に吸水または排水が発生する場合に適用され、砂質土・砂礫土はこの排水条件で実施することが多いです。CUbar試験は、CU試験において圧縮時に供試体中に発生する間隙水圧を測定して、圧縮強度を有効応力について求めるようにしたものです。CD試験の代わりとして準用されることがありますが、圧縮時に体積変化を伴わないことから、準用するには注意を要します。
図-5 モールの円の包絡線から強度定数を求めた従来の方法3)
以降、CU試験について説明します。CU試験にて求められる強度定数Ccuとφcuの物理的意味は、『任意の圧密応力で圧密された土が持つ非排水せん断強さを求めるための強度定数』3)です。なので、せん断強度をグラフで表現する場合、横軸は圧密圧力とするべきです。すなわち、図-5のようなモール・クーロンの破壊基準を適用したモールの円の包絡線には、物理的な意味が無いと言えます。
図-6 物理的に意味のあるφcuを求める方法3)
①モール円上のすべり面を表す点Aを、圧密応力σrの真上に持ってきて、これを連ねた線を引く。
②モール円の直径(σa-σr)maxを3等分し、原点に近い3等分点の真上の点Bをσrの真上に持ってきて、これを連ねて線を引く。
③モール円の頂点の縦距離、すなわち(σa-σr)f/2をσrの上にとり、これを連ねて線を引く。
「地盤材料試験の方法と解説」では、これらのうち、②の方法が実際的であると記載されています。
図-7 圧密による強度増加を考慮したせん断強さ4)
CU試験は圧密後の非排水せん断強さを求める試験であり、過圧密領域での試験はあまり意味が無く(排水条件がUU試験とほぼ同じとなります)、正規圧密領域で試験を実施することが、重要なポイントとなります。これで求まる土質定数が強度増加率mです。強度増加率mは、図-7に示すように、圧密終了時の非排水せん断強さCと鉛直有効応力p比で表され、正規圧密領域の拘束圧でCU試験を実施して上の②法で求めたtanφcuのことです。
なお、設計では強度増加率mとともにCu0も必要となることもあります。Cu0を求める方法としては、3供試体のうち1つは過圧密領域で、2つは正規圧密領域で試験を実施するか、同じ土質試料でUU試験を実施して、モールの円のグラフに重ね合わせる方法があります。
5.おわりに
今回、私が常に思っていることをツラツラと書いてみました。設計者にとっては、必要なパラメータが揃っていることが望ましく、そういった意味では、 N 値があればほとんどの土質定数が求まるということは、とても魅力的なことです。これに対して、 N 値による換算値を使うことにより問題は出てこないか?土質試験のコストを下げることで事業コストが増加するかもしれないといった懸念が湧いてくれれば、と思います。設計者には N 値から求めた換算値を提案するよりも、実際に実施した土質試験による値を提案するべきだと思います。
また試験条件の違いによって結果が大きく変わること、試験結果のとりまとめ方の違いによっても土質定数は違ってくることを理解して、土質試験を有意義に活用していただきたいと思います。
<参考文献>
1)「基礎からの土質力学」,理工図書,2017.4,p128~129
2)三笠正人:粘性土の状態図について,第22回土木学会年次講演会講演概要集Ⅲ,p.Ⅲ6-1~Ⅲ6-2,1967
3)「地盤材料試験の方法と解説[第一回改訂版]」地盤工学会,2020.12,p635~636を加筆修正
4)「道路土工-軟弱地盤対策工指針(平成24年度版)」日本道路協会,2012.8,p148に加筆修正
以上