関東土質試験協同組合
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第6回 現場と土質試験のあれこれ

「土質試験データは正直」という話

理事 橘 久生

1. はじめに

もう数十年前の話ですが,土質試験結果のデータは正直だなって感じた事例です。
 港湾地域で図-1のような概略断面で3本のボーリング(A,B,C)を実施して,乱れの少ない試料採取(すべてシンウォールサンプラー)を行い,各種の土質試験を実施しました。
 対象地は港湾地域でしたので,地層構成としては沖積平野にありがちな最上位に最終氷期以降に堆積した砂層があり,その下位には同じく最終氷期以降に堆積した厚い粘性土が分布するような地盤でした。今回はこの厚い粘性土に関する話です。


図-1 調査位置の模式断面

実施当時は工期があまりなかったので,とにかく現場で採取した試料をひたすら試験室に運搬し,次々に試験してもらいました。その後,試験データが出揃ったので,報告書を書くために各種相関図を作成しました。
 今回はそのデータの一部を使って,土質試験結果のデータは正直という話をしてみたいと思います。

2.物理特性の比較

まず,物理特性(土粒子の密度と粒度)です。図-2に地点別に色分けして示しました。
 土粒子の密度で若干のばらつきがありますが,地点別の大きな違いはなさそうです。
 粒度(粘土分とシルト分)についても,深度方向に特徴的な増減傾向を示していますが,地点ごとの違いはなさそうです。
 地層変化に乏しい港湾地域で,かつ調査区域の両端が100m程度なので,同じ物性なのはある意味当然な結果だと思います。


図-2 物理特性(土粒子の密度と粒度)の深度分布

さらに,その他の物理特性についても相関図(図-3)を作成しました。
 塑性指数は,先に示した粘土分含有率と良い相関になっています。加えて,粒度(粘土分含有率)に応じて深度方向に特徴的な増減傾向を示しています。
 ところがよくみてみると,粒度や土粒子の密度での地点別の違いはなかったのですが,自然含水比が大きい地点(A)では湿潤密度が小さく,自然含水比が小さい地点(C)では湿潤密度が大きい傾向になっています。普通,粒度(特に粘土分)が同じなら,含水比や湿潤密度も同じような値になってもよさそうなものです。


図-3 物理特性(塑性指数,含水比,湿潤密度)の深度分布

勘の良い方は,既出の模式断面図と比べて「あっ,圧密かな?」と気づくかもしれません。もし,原因が圧密であれば,強度増加もしているはずです。
 では,それを力学特性で確認してみたいと思います。

3.力学特性の比較

図-4に示す一軸圧縮強さの深度分布では,一軸圧縮強さの大きさがおおむね地点順にA<B<Cになっていますが,破壊ひずみではそういう傾向になっていません。加えて,圧密降伏応力の深度分布をみてみると,A地点での圧密試験結果が残念ながらありませんが,圧密降伏応力は標高-30mくらいまでB<Cの傾向が明瞭です。


図-4 力学特性(一軸圧縮強さ,破壊ひずみ,圧密降伏応力)の深度分布

ここまでみて,これらのデータをどう考えればいいのでしょうか。
 結論としては埋め立てによりC地点では圧密が進行し,強度増加して湿潤密度も大きくなる一方で,間隙水が排水されて自然含水比が低下したと考えるのが妥当だと思います。

4.最後に

この事例は,土質力学で考えてみれば当たり前の結果なのですが,理論でわかっていてもなかなか経験できないことが多く,当時私はこのデータを整理したとき,心から「データは素直だ!」と感激したことを思い出します。
 私自身,この事例を担当する前から,粘土分含有率の深度方向に対する傾向と,自然含水比,コンシステンシー,間隙比,湿潤密度や一軸圧縮強さなどの深度方向に対する傾向が一致するという物性値の違いについては体感として持っていました。ですから,試験結果は正直だという感覚はありました。
 とはいえ,この事例ほど試験結果が相互に素直に相関する関係を体感できたことはなかったので,今でも鮮明におぼえています。当然のことながら,この案件の報告書は非常に書きやすかったですし,書くのが楽しかった記憶があります。現場での苦労も報われた気がします。
 調査を専門とする技術者としては,調査するときは真摯に丁寧に試験・調査して,素直に解釈する姿勢がとても大事だと感じた案件でした。

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