関東土質試験協同組合
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第7回 現場と土質試験のあれこれ

DXとか、BIM/CIMとか、AIとか・・・これからの室内試験の重要性

理事 平松 晋一

1.はじめに

最近、我々の地質調査業界においても、DX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)とか、BIM/CIM(Building/Construction Modeling/ビムシム)とか、AI(Artificial Intelligence/人工知能)とか、今やトレンドになっているテクノロジーを活用しようという動きが盛んになっています。
 それでは、室内試験の分野ではどんな感じなのでしょう?「あんまり関係ないでしょ」と思っている人も多いのではないでしょうか?「いや、まんざらそうとも言えないよ」と思うことを、「地すべり調査・解析」を事例として(私は地質屋なので・・)考えてみたいと思います。

2.これまでの地すべりの2次元安定解析

図-1は、第三紀層のいわゆる“流れ盤”の地すべりの模式図です。風化・粘土化した凝灰岩層などの弱層が「底部」の直線的なすべり面を形成しており、「頭部」、「末端部」および「側部」で地表面まで切れ上がっています。地すべりの安定性を検討するためには、図-2に示すように、地すべり土塊の規模が最大となる(と思われる)2次元断面を切り取って、これをもとに「すべり面に沿って滑ろうとする力(活動力)」と「すべり面に抵抗しようとする力(抵抗力)」のつり合いで安全率Fsを算出します。この場合、滑動力に抵抗する最大の抵抗力を「せん断強さ」と言い、これがすべり面を構成する土の持つ強度定数(c:粘着力、φ:内部摩擦角)で決まってきます。


図-1 第三紀層の層面すべりの模式図1)

 図-2 2次元安定解析のモデル図2)

ところがこれまでは、この強度定数を直接求めることが難しかったため、地すべり層厚をもとに便宜的に粘着力cを仮定して(地すべり層厚が10mならc=1.0t/㎡、20mならc=2.0t/㎡という具合に)、現状の地すべりの安全率Fs=0.98~1.00として、内部摩擦角φを逆算して安定計算をおこなっていました。
 本来、せん断強度定数c,φは、すべり面の土質の性状によって異なるはずですが、この「逆算法」では、地すべり土塊の層厚で一律に粘着力cを決めているところに問題がありました。また、図-1と図-2を見比べてみるとわかるように、2次元安定解析では、かなり大きな強度を持つはずの「側部」や「末端部」(元々はすべり面ではなく踏ん張っているところ)の強度が反映されていないので、地すべりの安定性を正確に評価できていないという問題もありました。

3.3次元安定解析と室内試験の関連性

最近、建設・土木分野において、3次元モデルを基にしたBIM/CIMを利活用しようという取り組みがなされています。デジタル技術の進歩により、比較的容易に3次元モデルが作成できるようになったため、地すべり調査においても3次元安定解析が導入され始めています。この場合、2次元安定解析のように、「底部」のすべり面のほか、地すべりの「側部」(せん断領域)、「頭部」(引っ張り領域)、「末端部」(圧縮領域)の各部の強度定数を同一に設定したり、前述した「逆算法」によって粘着力cを決めたりしていては、3次元モデルを構築した意味がありません(図-3)。それでは、地すべりの各部の強度定数をどのように決めていけばいいのでしょう?


図-3 地すべり土塊の部位とせん断特性の関係1)

私は、ここで重要となってくるのは室内試験ではないかと考えています。地すべりの「底部」、「頭部」、「側部」及び「末端部」のそれぞれの地点で採取した土質試料(不攪乱試料)をもとに室内力学試験を実施し、これによって直接に求めた強度定数(c,φ)を使って安定解析を実施する、いわゆる「順解析」の手法が必要となってくるはずです。この場合、地すべりの各部の活動様式に合わせ、室内力学試験も一面せん断試験(あるいはリングせん断試験)や三軸圧縮試験などの試験方法を使い分ける必要も出てきますし、せん断特性に応じて、ピーク強度あるいは完全軟化強度で評価するのか、それとも残留強度で評価するのかという判断も必要となります。まさにこういうところで、室内試験を専門としている技術者が積極的に関わる余地が出てくると思います。

4.これからの室内試験の役割

ところで、3.で述べたように、室内試験結果を調査・設計に直接的に活かしていくためには、高品質な不攪乱試料(乱さない試料)のサンプリングが前提になってきます。現在では、ダムや地すべりの現場においても、「高品質ボーリング」の適用が当たり前になっており、断層破砕帯でも地すべり土塊でも、ほぼ原位置に近い状態のコア試料を連続的に採取できるようになってきました。室内試験の結果は、供試体となる不攪乱試料の品質に大きく関わってくるので、試験に従事する技術者も現場での適切なサンプリング手法に関して、ある程度の知見を持っておくべきでしょう。これからは、現場の技術者やボーリングオペレーターと積極的にコミュニケーションを取ることも必要かもしれません。
 また、試験対象とするサンプルの選定や供試体の品質の良否を判定するのも、室内試験を担当する技術者の役割になります。図-4に示すようなX線CTスキャナーを利用し、得られたX線CT画像をもとに、サンプルの選定・品質評価をAIに判断させるという時代が来るかもしれません。
 いずれにせよ、DXの推進で地質調査業界のあり方も大きく変革していこうという中、室内試験の分野もこの流れに取り残されないよう・・というか、むしろ重要な役割を担っていくチャンスが来ているのではないでしょうか。


図-4 地すべり調査におけるボーリングコアのX線CT画像の例
(応用地質(株)社内資料)*青色が高密度、赤色が低密度を示す.


<引用文献>
1) 美馬ほか(2020):CIM時代の3次元安定解析手法,日本地すべり学会関西支部会誌らんどすらいど.
2) 農林水産省(2023):土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 計画 「農地地すべり防止対策」技術書.

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